レポート161号 2019年3月

●巻頭言
倹約の心で地球環境問題を考えよう

はじめに

昨年は猛烈な異常気象が発生し、世界中に創造を絶する大被害を及ぼし、多くの尊い命が失われました。近年の世界的な異常気象は、自然要因による天災だけでなく、人類の独断と偏見による地球破壊活動の相乗作用の結果で、このままでは今後も永く続発することが心配されています。本年の年頭に当たり、荒木光理事長先生の巻頭言を拝読して、人間の究極の目的は「人類が生き続けること」であるというお言葉に強い感動を覚えました。人類の豊かな未来を拓き、安全で平和な地球環境を子孫に伝え、人類の持続可能な社会を構築することが世界中の全人類に課せられた最重要課題であることが明らかです。本稿では、それぞれの個人が自分で考え、たとえそれが細やかなものであっても、意欲的に実行に移すことによって、その蓄積が大きな力となることを信じて拙文を纏めてみました。

世界人口増加と高齢化情勢による地球環境への脅威

人為的な地球温暖化の主原因は、地球の急激な人口増加と豊かな生活を求めて地下資源(化石燃料)を大量消費してきたためであると考えられます。2018年7月の世界人口は遂に75億~76億人に達したとの報告があり、国連の予測データでは、2050年に98億人に達し、2100年には112億人にまで加速的増加を持続する見込みとされています。産業革命以来、世界人口は急速に増え続け、1800年頃に約10億人に達し、1927年に約20億人、1974年に約40億人にまで増えました。他方では、比較的出生率を低く抑えてはいるものの人口が多い中国、米国、ブラジル等では、高齢化が新しい課題となり、60歳以上の人口は現在の約9億6200万人(世界人口の12.3%)から2050年は約21億人(同22%)へと倍増し、さらに2100年には3倍の約31億人になる見込みとされています。
中でも、日本は急速な少子高齢化社会の到来が心配されています。世界的な人口の爆発的増加が予測される中で、我が国の人口のみは逆に顕著な減少傾向にあり、その上、少子高齢化の傾向が深刻な問題となっています。日本の人口は2015年の国勢調査では約1.27億人で、65歳以上の高齢者は全体の26.6%と報告されていますが、50年後には総人口が3割減の約0.88億人になると推計され、高齢者は38.4%となることが予測されています。そして、14歳以下の年少人口は1595万人(2015年)から898万人(2065年)へと大きく減少し、このままでは、今後はさらに少子高齢化傾向の加速することが指摘されています。これは、日本独自の大きな課題であります。

地球環境の観点からも、このような世界人口の持続的増加が、さまざまな地球環境の悪化を招くことが心配されています。これまでにも永年にわたり、人類は帯水層、氷床、肥沃な土壌、森林、漁業資源、海洋なども含めて、地球の枯渇性資源(再生不能資源)の「備蓄残高」を利用し続け、大量の資源を消費し、汚染を拡大して来ました。
主な地球環境問題としては、以下の各項目が挙げられます[1]。①地球温暖化問題(炭酸ガス、エネルギー問題)、②オゾン層の破壊(フロン系ガスによる紫外線量の増加)、③酸性雨・硝酸雨(硫黄酸化物や窒素酸化物による農地や河川の荒廃)、④海洋汚染(油汚染、化学物質、投棄プラスチック類の海洋漂流激増)、⑤熱帯雨林の減少(乱開発、パルプの大量消費)、⑥砂漠化(森林の伐採、水不足)、⑦野生動植物の減少(生物多様性の危機)、⑧有害廃棄物の越境移動(バーゼル条約)、および⑨途上国の公害問題(経済優先、南北問題)などがあります。これらは全て、我々の日常生活そのものが原因になってきているのです。持続可能な社会を構築して行くために、今、国際的にも国内的にも挙げて取り組んでいます。この中で最も優先的な取り組みは地球温暖化問題であり、温室効果ガスが人類の化石燃料の大量消費で発生して、海水温度が高くなり、人為的な異常気象を誘発する主原因となります。結局、人類の生活様式が問題となるのです。そして、2050年位までに地球気温が現在より摂氏2度以上上昇すれば、地球生態系に極めて大きな影響が生まれ、食料飢饉や温帯性気候の亜熱帯化など壊滅的な影響を受けることが国際機構IPCC(1988年成立)で指摘されました。既に国際的な協定として京都議定書(1997.12)やパリ協定(2015.12)として締結され、世界の平均気温上昇を極力抑え、温室効果ガスの排出を21世紀後半までに実質ゼロにするための努力が義務づけられましたが、大国のエゴでその効果は期待できない有様です。
これからの地球環境を積極的に改善して行くためには、国際的な協力体制をさらに厳密に構築することが必要ですが、各国の指導者達や行政、専門家達の責任に任せるだけではなく、人類社会の豊かな未来を拓くためには、全世界の各個人が、それぞれ責任を持って自分でよく考え、知恵を集約して行かなければなりません。特に、若い世代には将来を見据えて真剣に地球環境問題について考えて頂きたいものです。

倹約の心と環境調和型社会の構築

大量生産と大量消費に明け暮れた20世紀後半の先進工業国のツケとして大量ごみが山積し、莫大なエネルギー消費と相俟って地球環境破壊が進んできました。その後、世界規模での見直しが行われ、3R運動(Reduce, Reuse, Recycle)が提唱されました。一般廃棄物・産業廃棄物の中でも最も問題となったのがプラスチックなど、生態系にとっては異物である人工有機化合物から重縮合反応で得られた合成高分子の廃棄物(プラごみ)であり、埋めても腐らず、燃やすと有害ガスを排出して大きな社会問題となって来ました。OECD(経済協力開発機構)によると、2015年の世界のプラごみ発生量は3億トン以上で1980年代と比較して6倍に増え、その約半分は使い捨てのプラスチック製の包装・容器であり、中国の発生量が約4千万トンと最多ですが、1人当たりの発生量では米国に次いで日本は2番目に多いと報告されています。
他方、日本では早くから不完全ながら、プラごみの回収制度が整えられて来ましたが、世界的には未だ徹底されていません。プラごみ回収システムが未成熟で海洋に面した地域では海洋プラごみの排出源になっています。しかしながら、海洋プラごみの問題は一国内で完結しません。これまで、日本国内で回収されたプラごみの4割以上が主に中国で処理されてきましたが、現在は中国の受け入れが停止されて、日本の港などには未処理のプラごみが山積している始末です。海外での処理には、不適切な扱いにより環境汚染の問題も指摘されています。国連の調査などによると、海中のプラごみの80%が河川から流れ出したものとされ、日本でも全国の川ごみとして4千万本のペットボトルが国内の河川に散乱していると言われています。現在、深刻な海洋汚染につながるプラごみを削減する国際的な取り組みが加速しています。日本も、行政ではレジ袋の有料化義務づけの他、使い捨てプラごみの排出量の25%削減を目指す検討に着手、プラ製ストロー廃止に動き始めています。
日本政府は、コストと便利さからプラスチックの使用量を減らすより、これまではプラごみの削減策として3Rの中で、Recycle(再生)を重視して来ました。しかし大量の散乱ごみや回収ごみの再生能力にも自ずと限界があります。国内では、回収された一般廃棄物の約8割は焼却され、プラごみを焼却した熱を何とか工場で使うサーマルリサイクルが処理方法の6割近くを占めていますが、あくまで緊急避難措置に過ぎません。これからは、Reduce(削減)やReuse(再利用)を積極的に進めていく必用があります。日本には本来、質素倹約を美徳とする風潮がありました。倹約の心は、国民として独自に育てることが出来るものであり、再生のように組織や技術に依存する必要もありません。そして、一般廃棄物として家庭から出る燃やせるごみの約半分はプラスチックや紙の容器・包装材のごみであることが報告されています[2]。脱プラのためには、例えばRefuse(辞退)を加えた4R運動を展開することも必要でしょう。最早、消費者のモラルや意欲に頼る現在のプラごみ回収制度では解決できません。例えば、レジ袋の有料化やデポジット制など消費者や事業者にも責任を負担させるとともに、事業者と消費者が積極的に協力して取り組むシステムの構築が必要となります。さらに、最近では自国の政権とは関係なく自治体や企業グループが主導権を発揮させて、お互いに手を組んで環境問題の解決しようとする動きが出てきたことが報道され、日本でも大企業を中心に自治体も真面目に取り組みを進めています。これからは、消費者も独自に倹約の心で、レジ袋はもらわない、プラ容器・包装を使った商品や使い捨て商品を敬遠して、詰め替えタイプの製品を選ぶ、マイボトルを携帯してペットボトルの消費を抑えるなど、自分から良く考えて持続可能で健全な未来の地球環境を子孫に伝えていくことが大切となります。

おわりに

人間だけが持っている大脳新皮質の前頭葉の働きを高めるために、教養を身につけ、意欲・創造の精神を育成し、それぞれが自ら考え行動する自由意志を生み、自主的な努力を通して、豊かな未来・将来を構築することが大切です[3]。そのためには、しっかりと人間性を育てる珠算塾という共同体の中で、早くから五感を磨き、自ら良く考え、直感力(第六感)と共感力を豊かにし、意欲を自由に伸ばし、創造の喜びを体験することが必要です。そして、本稿のテーマである異常気象をはじめ、地球環境の改善のためにも、個人として今何をすべきか、たとえ細やかなことでも、自分で考え、実行する意欲を豊かに育て上げるには珠算学習の経験が大きな力を発揮することを信じて、今から前進されることを心から願う次第です。

NPO法人IMそろばん名誉会員
大阪府立大学名誉教授
林 壽郎

参考文献

[1]高月 紘:講演「持続可能な社会の構築に向けて」(2018.11.13)より
[2]原田禎夫・浅利美鈴:「オピニオン&フォーラム」、朝日新聞(2018.11.17)より
[3]時実利彦:「人間であること」、岩波新書(G124)、(1970)

●ヒロヤの独り言

地球人としての責任と自覚

I.T.化が進んで30年余り、最近のテレビは無責任な行動をとることが多々あるように
思う。
朝の番組を拝見していると、あるコンビニで、店員がおでんの中に手を突っ込んで中の商品をつまんだり、叉、吐き出したりしているシーンがあった。私はただ驚くばかりである。従前は伝達手段が今とは違い、アナログであったがデジタルに変わったからであろうと思われる。たとえ、若者であろうとその行為をするには責任と自覚が必要であろう。商品のおでんをつまむのなら、従前の若者なら金を払って自分で商品を取るであろう。しかし、この自覚のない少年はカメラに映ることが承知の行為であっても、地球上の人々に瞬間に映ることを覚悟してやっているのであろうと思われる。何と無責任なことであろう。
アナログ時代の人々の行動は他人の人々に迷惑をかけないという教育を徹底して受けていた。それがどうだろう。彼の行動はI.T.化が進むことによりその映像が瞬時に映ってしまう、言い換えれば半永久的にその映像が残される。その映像に出た若者は永久にそのシーンは地球上のどこかで残されることを自覚しての行動であろう。
最近のそろばんの先生を見ていると、この若者の行動に似たものが感じられる。そろばん教育は、子供の理解のために検定試験がある。水素と酸素が混ざると水ができる。当たり前のことだが。プールの水を眺めれば水素と酸素の元素に戻ると区別するように見えるであろうか。もちろん見えない。検定試験を不合格になった子供に先生方は、どのような
説明をするだろうか。当たり前に言えば、不合格者の子供に対して “次、頑張るように励ましてやる”のが当たり前である。しかし、それも十分時間をかけて説明してやることがないのだろう。おでんをつまんだ店の店長は、どのようなしかり方をするのであろうか。社会人としての責任と自覚にのっとった指導をするのであろうか。いや、そうではない。恐らく、上司に伝えて、上司は若者の自覚を待つよりも退社させるであろう。社会の流れはそのようなものが多い。無責任な退社をさせるであろう。首を切られた若者は、おでんを摘まみ食いをすることは社会的にどのようなことだろうとは考えない。たとえ、考えてもそれが自分に責任があるとは思いつかない。検定試験を落ちたことに対して指導者は生徒とともに涙を流しながら説明する人はいるだろうか。1級から3級を合格した生徒(履歴書に合格級を書いた時代の人たち)は、今では何歳になってるだろうか。ただはっきりして言えることは、そろばん教育は四則が瞬時に計算できることだけがそろばんの目的ではない。上級合格者や有段者は、物事を瞬時に整理整頓ができて自分の意見として相手に正しく伝えることが責務であろう。今般の若い先生たちは瞬時に計算して答えを求めることを“良し”としているように思われる。

ハワイより“お知らせ” ―9月より、ハワイだよりを掲載する予定である。―

2019年3月 荒木 碩哉

●2019’グローバルそろばんオリンピックを終えて

茨城県 佐藤 信子

小雨の中、選手の皆さんが会場に入る姿を迎える余裕が今回はありました。当塾から残念ながら選手の参加が無い状況でしたが、聞き取り諳算作問をさせて頂きました。
採点室では、一生懸命書かれた答案用紙の数字を見て気付いた事があります。たぶん有段者の答案用紙なのでしょう。ちょっと見づらい数字でしたが(あまりにも細かく小さくて)判断出来ますし、大きく書いてあるけれど、読みづらい数字があるものだと気付かされたものです。


静岡県 高梨 和司

本大会の準備から運営まで、大変ご苦労されたかと思います。
私は、当日に楽しませていただいただけで、申し訳ありません。また、大変感謝しています。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。


埼玉県 関根 由季

 今年で何回目になるのか…
京都国際会館にての開催後、毎年参加させていただいております。
そろばんで身につく能力…計算力プラス処理能力も養えるこの大会、生徒の頑張りが随所にみられ、指導者としても身の引き締まる大会です。
今回も準備等たくさんお世話になりました。


千葉県 瀬戸山 敦

 あいにくの天候ではありましたが、前日からの準備や、平塚先生のお力で比較的円滑に進められたと思っている。
大会とは全く関係ないけれども、会場の周りにやたらと警察官が多かったのは何故だろう?花粉症のためのマスクがあったので無事に家に帰れそうだ。小遊三師匠の様な冗談はさておき、やはり準備というものは非常に大切なものだと痛感した。
「雨は冷たいけど濡れていたい」などと歌った昔の歌手がいたが、自分にそんな風流な心はないので、次は晴天にめぐまれることを祈っている。


埼玉県 卜部智代子

 特訓期間を設ける間もなく、アットいう間に今年度の大会を迎える事になってしまいました。この事をふまえますと結果はみるまでもなく一目瞭然の成績になってしまいました。
来年度は、選手の皆さんと一致団結して大会に臨みたいと思います。


埼玉県 山本亜季子

 今年もグローバルそろばんオリンピックが開催され、無事に終えることができました。
先生方には準備の段階から大変お世話になり有難うございました。
この大会は種目が多いうえ、英語文章問題、英語の聞き取り問題もあり、ハードルが高いため、たくさんの選手を参加させることがなかなか難しく、今大会も少人数となってしまいました。
今回も、準備の段階からお手伝いさせていただき、いろいろな反省点等がありました。
毎年大会を終えて思うことがあります。反省点も含め、次回に向けて話し合う機会があればと…宜しくお願いいたします。


埼玉県 佐藤 理沙

 今回も大変貴重な大会に参加させていただき、ありがとうございました。
北とぴあ「スカイホール」、とてもいい眺めで、晴れていたらさらによかったんだろうな~と、会場の環境にうっとりしてしまいました。
さて、大会では、今回も「ジャネットカップ」「ヒカルカップ」の読み手を担当させていただきましたが、選手の方からも、何度か「聞きにくい」と指摘を受けてしまったのが自分の大きな反省点でした。「もっと選手の身になって聞きやすく、しかしある程度のスピードをもって読む」ということをさらに意識して、事前に読む練習をしっかりしてこなければいけなかったなと、反省しております。
採点にも少し関わらせていただきましたが、今回はそんなに判定に困る「数字」「解答」はなく、選手たちもしっかり「練習を積み重ねてきているんだな~」という様子がうかがえたような気がします。
ハワイの抽選!とても面白かったですね!Nice Idea!楽しかったです!大会がトラブルもなくスムーズに終わったこと、何よりよかったと思います!大変お世話になりました。
また次の機会に選手の皆さんや先生方にお会いできるのを楽しみにしおります。


千葉県 喜多 吉子

 何回目かな?そろばんオリンピックが開催されました。参加の人数を気にかけていたが、とにかく当教場においては、次のチャンスに活躍する生徒を何とか参加させたいと努力しました。
その当時を見ていると、小学生は3月の3日は「おひな様の日」以外に部活の時間が決まらないとか、習い事が…旅行の予定で…等とゆとりをいっぱい持っているにも関わらずその日は云々言うのです。
待て待て・・・もう締め切りだからまず、申し込みをしましょう!!練習日を確保しておきましょう!などと誘い、誘われてようやく出場にこぎつけました。
さて、生徒の皆さんはどんな感想か?後で読ませていただくのが楽しみです。今回は、練習日数の不足を盾に、生徒をはげまして来年に期待したいところです。
それにしても良かったことは長年、頑張っている生徒にトロフィーを抱かせるのはやっぱり、生徒も先生も嬉しい!!の一言ですね。また頑張ります!


千葉県 菅  幸子

 今年もグローバルそろばんオリンピックに参加出来て嬉しいです。
やはり、子どもたちもやる気と希望が湧いてくる大会です。大会練習も後半になってくると、5位以内には入れるかもしれない…ハワイ当たったらどうしよう!と、夢を膨らませている様子でした。
今回ヒカルカップを担当させてもらい、16桁の優勝者が決まりそうで決まらない時間が続きましたが、皆さんのレベルの高さがうかがえて、ハラハラドキドキの決勝戦でした。
大会の終わった後の、子どもたちと話す次への挑戦が一番盛り上がります。とても刺激を受けたようでした。
準備、運営、関係者の先生方、大変世話になりました。ありがとうございました。


●事務局だより

【 ご 案 内 】

会員各位におかれましては日々ご健勝のこととお喜び申し上げます。
下記の日程で、監査会ならびに理事会、定例総会を開催いたします。
総会は会員各位の発言する大切な場であり、出席は義務でもあります。ご多忙中とは存
じますが、ご出席賜りますようお願い申し上げます。
なお、詳細につきましては、次月号でご案内させていただきます。

平成31年6月23日(日)  ■I.M 監査会 「北とぴあ」
7月 7日(日)  ■I.M 理事会 「北とぴあ」 午前
■I.M 総会  「北とぴあ」 午後

I.M.そろばん 事務局
喜多 吉子

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