レポート154号 2018年8月

●巻頭言
人間性を揺るがす現代社会を見直そう

はじめに

近年の世界的な異常気象の出現は、あたかも人類による地球環境の独善的な破壊活動をさらに反省させる天罰であるように思われます。日本も、阪神淡路大震災をはじめ、東日本大震災と原発事故、熊本大地震は未だに回復も不十分です。特に、本年の夏季は、西日本豪雨により、各地で大規模な被害が出ました。その後には、日本各地で殺人的な猛暑が続きました。とりわけ、7月末から日本列島を襲った台風12号は、気象庁が1951年以降、統計を取り始めた観測史上「初めて」の経験で、上空の寒冷低気圧と猛暑の高気圧の競合で、東から西へ列島を横切る異常な経路を取り、各地に大被害を及ぼし、その後も猛暑と豪雨が続きました。このような異常気象は世界各地を襲い、北アフリカや欧州をはじめ、米国西部で猛暑と異常乾燥のため大規模な山火事が発生しました。WHOは「長期的な温暖化傾向が異常気象をもたらした可能性がある」と警告しています。
豪雨と猛暑が続いた今夏のような異常気象に対処するため、日本政府は最近、気候変動適応法案を緊急に纏め、温室効果ガスの排出削減対策(緩和策)と、気候変動の影響による被害の回避・軽減対策(適応策)を車の両輪として法的に位置付け、関係者が一丸となって適応策を強力に推進して行くことを提案しました。日本においても、気候変動の影響がすでに顕在化し、今後更に深刻化する恐れがあります。例えば、豪雨と猛暑、強烈な台風の発生数の増加などの異常気象・災害が常態化し、農作物や水産物の被害の増大、熱中症・感染症患者の増加、生態系への悪影響などに対する有効な適応策が求められます。
本法案の概要は、適応策の総合的推進、情報基盤の整備、各地域での適応策の立案と強化、および適応策の国際展開に関わるものであります。そのために、国の指導・監督の許で、国、地方公共団体、事業者、国民がそれぞれ担うべき役割を明確化して、全ての組織と個人が緊密な連携を保ち、心を一つにして知恵を絞ることが求められます。
これからの地球環境を積極的に改善して行くためには、国際的な協力体制をさらに厳密に構築することが最も重要ですが、各国の指導者達の責任だけでなく、人類社会の豊かな未来を拓くためには、全世界の各個人、とりわけ将来を担う若者達全ての自覚と協力が不可欠であります。

人類社会の発展

筆者は最近、霊長類研究の世界的権威にして、ゴリラ研究の第一人者、京都大学理学研究科教授、京都大学総長・日本学術会議会長の山際壽一先生が法然院 森の教室でお話された内容のリポートを拝読する機会に恵まれ、熟読して深い感動を覚えました。誠に不躾ではありますが、筆者の理解できた範囲内で、内容の一部を謹んで紹介させて頂きます[1]。
人類が霊長類の中で突出して独自の進化を遂げたのは、人類の遠い祖先と共通祖先であるゴリラやチンパンジーから分かれた約900~700万年前とされています。その時、人類は初めて直立二足歩行が可能になり、両手が自由になりました。ゴリラやチンパンジーは遺伝的に人間に近く、五感(視角、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)も殆ど同じです。人類も、五感で世界を認識してきました。ゴリラは家族的な小さな集団社会(家族)を構成し、家族は種の繁殖集団として、親は子孫から全く見返りを求めません。他方、チンパンジーは複数の雄と複数の雌からなる共同社会(共同体)を構成しますが、そこには、それぞれに役割分担があり、互酬性があります。一方、人類は、その後、脳の発達に伴って重くて成長の遅い赤子を多産するようになり、そのため、母親一人では出産・子育てが難しくなり、共同保育を始めました。その共同子育てと共食によって共感という能力が育ちました。その結果、人類のみに家族と共同体を合わせ持つ二重構造の社会が生まれたのです。
現代人の祖先であるホモサピエンスは、20万年前にアフリカに登場して世界中に広がりました。人間のみが持つ言葉で世界を理解していたように思われますが、言葉は五感を共有するための手段に過ぎません。言葉はシンボルであり、それを使って世界を変えるようになったのは、7万年前のことに過ぎません。そして、人間の脳が現代人並みの大きさ(1500cc)にまで成長したのは40万年前で、人間社会の二重構造のお陰でお互いの五感が磨かれた結果でした。それは丁度、150人程度の集団で生活できる大きさで、10人の大家族が15組集まった共同体に相当し、過去に一緒に体験を共有した人数、生きて行く上で頼りになる人数となります。伴に、同じものを食べる、服を着る、お祭りをする、掃除するなどには地域文化として同調するリズムが生まれ、五感に基づく共感能力によって達成された身体の繋がりのある共同体なのです。
その後、現代人は、行動範囲の急激な拡大に伴って、それ以上の多数の人達と付き合わざるを得なくなり、情報が必要になってきました。そして、言語的な情報交換、情報処理能力が必要となりました。言葉は人間の記憶の外部化であり、見えないものを見る効力を持つため大きな役割を果たしてきました。人間は次第に創造的に芸術を生み出し、それらを共有するための場所も必要となり、定住によって芸術も言語も生き伸びてきました。そして共感力を高めた子供達は、憧れ・夢を抱き、他者の中に自分の将来を見るようになります。そして、社会の中に自分の位置を見つけ、自分の能力を理解して活躍できる場を探し始めます。そのためには、先ず最初に五感を精一杯に使って世界を理解することが大切となります。子供達は学習を通して自ら考え、育つのです。そのために、大人は適切な学習環境を整え、子供に学習のヒントを如何に与えるかを考えることが最も大切となります。

現代社会の緊急課題

その後、人類は家族と共同体の二重構造社会の中で着実に成長を遂げ、1.2万年前に農耕牧畜を始めました。当時の地球人口は500~800万人でしたが、その後、急速に人口が増大し、現在では76億人となり、深刻な食糧問題や地球環境問題が大きな課題となってきました。現代社会で解決すべき課題が山積する中で、最大の問題点は、家族と共同体の二重構造の社会が崩れ始めていることです。複雑な現代社会で最も大切な家族の繋がりが希薄となり、共同の子育てがなくなり、共食の機会が激減したため、五感を使う情報交換ができなくなり、個人が社会に裸で放り出されてしまいました。その代わりに、脳で情報交換し合い、お互いに繋がり合っているという歪んだ錯覚を覚えるようになりました。それは、五感による共感力を持たないまま、ルールのみに依存した社会です。生活は便利になりましたが、利己主義と利益優先主義の閉鎖的な社会となり、宗教も、科学も、音楽・芸術も、どんどん個人ベースとなり、人間関係が極めて希薄になってしまいました。そして、AI時代の若者にとっては、五感による身体の繋がりよりも脳の繋がりを優先する人間関係が主体となり、他者との交流も下手になりました。五感を磨かないため、目の前で話をしている人に価値を置けず、意識を集中させることも、自己決定も出来なくなりました。AI社会は効率的、経済的な利点はありますが、中心がなく纏まりません。リーダー不在のネットワーク社会の中で瞬間的な情報交換は作り易くても、持続性と身体同士の結びつきが必要なときは何の役にも立たないのです。AIは、それ自身が人間の欲求を持たないため人間の営みが出来ません。そのため、AIは人間関係を理解出来ず、死後の世界の想像も仮定も出来ません。人間は、たとえ死後の世界を理解出来なくても、それを仮定して人生を考えます。死すべきものと感じているからこそ、生もあるのです。そこに、真に生きる意味が生まれるのです。
人間の大切な能力は直観力と共感力です。直観力は人間相手や自然相手とやりとりしながら鍛えあげられます。直観力を正しく働かせるために役立つのはデータではなく共感力です。それは今、相手と自分がどのような世界にいるのかを感じ、考える力なのです。感情を共有させ、曖昧さを残して共存する、これは100%データに頼るAIには絶対に出来ないことです。従って、これからの情報交換の在り方としては、それぞれの規模によって適切に使い分ける工夫が必要です。言葉だけに頼らず、五感を駆使した身体同士の繋がりをどこかで保持しておかないと、安心できる社会は造れないでしょう。

おわりに

人間だけが持っている大脳新皮質の前頭葉の働きによって、教養を身につけ、文明を開発し、文化を伝承していきますが、これは全て意欲・創造の精神の具現にほかなりません[2]。そして、各個人が自ら考え行動する自由意志を生み、自主的な努力を通して、豊かな未来・将来が与えられるのです。理解力、判断力、思考力を養うことも大切ですが、もっと重要なことは、直感力を豊かにし、意欲を自由に伸ばし、創造の喜びを体験することなのです。
そのためには、人間性を育てる珠算塾という共同体の中で、幼少時から五感を磨き、自ら考え、意欲と創造の精神を育てる珠算学習を経験することが、現代社会で力強く生き延びていく本人の将来のために、最も大切ではないでしょうか。

[1]山際壽一:「第54回法然院 森の教室リポート」、
フィールドソサイエティー、(2018)

[2]時実利彦:「人間であること」
岩波新書(G124)、(1970)

大阪府立大学名誉教授  林 壽郎

●記念講演

I.M.そろばんに思う事

そろばんの先生になる為に事前に知っておくこと(そろばんでは教えない)

+ - × ÷ 、そろばんの先生は加減算(+-)かけ算、わり算も教える。これが世間一般で教えている計算の記号だ。(万国共通)

― 教育とは教え育てる事 ―
例えば、水素と酸素が一緒になれば水になる。同じように化学反応を起こして水になるように教え育てる。
文章題を解くと言うことは化学反応を起こしていると言うことである。生徒が指導者よりも上級の技術を習得することがある。
私はそろばん教育を教えて54年になる。それを今から話をします。理解して頂きたい。

<教育>
― 教育には教育と訓育がある ―
訓育とは、スポーツとか、剣道、柔道、空手道等。そろばんもその中に入る。(81通り)
訓育は、職人を育成する。
教育とは、教える先生以上に力を出させるものである。そろばんの先生が持っている力よりも上を行く。

― I.M.そろばんでは ―
◎テキストをイーゼルに立てかけて教える
◎2桁を4口で教える。(諳算力が付く)
以上を、ステップ20まで到達するには、最初は優しいものから段階を経て教える。

Step 1.  繰り上がり繰り下がりの無い問題
P1 1桁4口 5問
P2 文章題 時制を理解させる。
(例)本日、今日、今、
昨日、きのう、一昨日
あした、明日、明後日、おととい、 等

Step 2.  たし算と九九(0の段、1の段、2の段・・・)
外国では九九を覚える習慣はない。ハワイ教室では九九を覚えさす。
理由は計算するときに便利である。九九を知って居れば便利である。

Step 3.  10の合成分解
9+1=10   8+2=10   7+3=10・・・1+9=10
(そろばんで理解さす)

Step 4.  たし算と九九
(3の段と4の段)

Step 5.  5の合成、分解  4+1 3+2 2+3 4+2

Step 6.  たし算と九九
(5の段と6の段)

Step 7.  5の合成分解と10の合成分解  6+5 7+5 8+5 9+5・・・

Step 8.  たし算と九九
(7の段と8の段)

Step 9.  2桁上から借りてくる問題  10-1 10-2 10-3・・・

Step 10.  足し算と九九
9の段と10の段

Step 11.  総合問題  81通りの混ざった問題をさす。

Step 12.  たし算と九九
11の段と12の段

以上で81通りの計算方法をマスターしたことになる。同じ問題を何回も練習さす。
2+3=5  2×3=6 の異なる意味を理解させる。九九を覚えると便利である。

<かけ算>
3桁×1桁  356×4=1424  この問題を教えるときの指導法
300×4=1200
50×4= 200
6×4=  24   ,【konma】の書き方を教える。

日本の数字は
(例)お金の計算は整数までであるので小数はなかなか理解できない。
アメリカの場合:検定試験を受けている子供と受けていない子供の違い。
受けている子は、
集中力が付く
持続力が付く
忍耐力が付く
諳算力が付く

以下、省略

【感想文】

千葉県 菅  幸子

 IMの原点のお話を聞くことが出来ました。
教育と訓育について、イーゼルに立てかける理由、81通りの計算方法、検定試験について、アメリカの数の概念など、大切なことを改めて教わりました。
教育とは教え育てる事…これからも心に留めてそろばん指導をしてまいりたいと思います。


千葉県 基藤 悠臣

 NPOの総会としての形式や進め方など、知らない世界を見せていただきました。
協力業者という立場での参加でしたので、お話を伺うばかりでしたが、今後のIMそろばんの組織としての今後の発展に貢献・寄与できるよう自分にできることを最大限実行していこうと決意を新たにいたしました。
ホームページから会員が増えるよう、内容の充実を図ってまいりますので、気づいたことがありましたら、どんな些細なことでもご意見いただけると幸いです。

●検定試験について

●行事予定

以下の行事が企画されています。
■ 考えるそろばん 小学生大会
■ グローバルそろばんオリンピック in Hawaii
くわしくはこちらから

●事務局だより

N.P.O法人I.M.そろばん平成30年度総会が7月8日(日)、北区北とぴあ にて開催されました。本年は珠算界各団体による総会・競技会等予定が重なり合ってしまいました。総会への出席は会員の義務でもあり、権利でもあります。次年度の開催には日程の情報には細心を払い対応させていただかなければならないところです。
この度、13期総会開催のご報告、その他を送付いたします。お受け取りください。

1、 総会配布資料
1、 平成30年度会費納入のお願いと納付用紙
1、 I.M.検定受験申込書一式・検定試験監督手引き

以上、会員の皆様へ総会資料としてお届けいたします。

喜多 吉子

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